メルカリの世界:01 海外からアクセスできない!

Submitted by 恩田重直 on Wed, 09/01/2021 - 06:00
mercari
メルカリのプライマリーロゴ(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1
 

 かねてから、やってみたいと思いつつ、なかなかできなかったことの一つにメルカリがあった。メルカリで「買う」ではなく、「売る」である。出張はおろか、出社もままならないコロナ禍で、ようやくはじめてみることができた。新型コロナウィルスの蔓延で得られた、数少ない恩恵の一つである。

 「売る」ことに、二の足を踏んでいたのには、理由がある。それは、出張が多かった、ということに尽きる。とりわけ、購入した商品の取引中に、海外出張した際、メルカリにアクセスすることが非常に困難をきわめた経験が尾を引いていた。メルカリのスマート・フォン用アプリケーションをはじめとして、海外からのアクセスに厳しい制限がかけられているのだ。それは、出品者と購入者のいずれかが海外にいる場合、連絡できないことを意味する。つまり、国内にいる時に行った取引を完了させるための手続、すなわち相手の評価ができずに困ったのである。

 

アスカ出版編『売ってみた』(kindle版、2021.3)を、Amazonで見る↗

 

 いま、履歴を振り返ってみると、メルカリで「買う」ことは、2019年の初頭にはじめたようである。この時期は、日増しに海外からのアクセス制限が厳しくなっていった時期と重なるような気がする。というのは、はじめた当初は、海外からでもメルカリの出品が見られたと記憶しているからだ。ところが、ある時期から、海外からは、日本国内にあるサーバを中継したVPN接続という方法でネットワークに接続しなければ、メルカリの出品が見られなくなった。それも束の間、VPN接続でも見られなくなったのである。

 冷汗をかいた取引は、2019年5月のことである。出国前に購入した商品が、海外出張中に自宅へ届いた。家人に中身を確認してもらい、いざ、出品者の評価をしようとしたところ、出張のために用意していたVPN接続では、メルカリにアクセスできないのである。この時は、帰国までに時間があったこともあり、焦った。そこで、日本国内にあるサーバを使用してVPN接続を提供している業者のサービスを、片っ端から試してみた。どこもつながらない中、かろうじて、とある一社が提供するVPN接続で事なきを得た。以来、メルカリから足が遠のいたのは、言うまでもない。

 

 

 この体験を整理してみると、メルカリは2019年の上半期に、海外からのアクセス制限を強化したようである。これを裏付けるように、『ビジネス法務』の2019年4月号には、上村篤の「株式会社メルカリ 権利者・官公庁と協力した不正出品物対策」という記事が掲載されている※2。最近は、海外出張がないので、確認のしようがないが、おそらく、一段と強化されているのではないだろうか。

 では、なぜ、海外からのアクセス制限を強化しなければならないのか。まさか、日本語でのやりとりを中心とする不用品の売買取引において、外国人が悪さをする割合が高いからではあるまい。むしろ、海外にいる日本人を犯罪者予備軍として、警戒しているのであろう。そう、免税品をはじめとした海外の商品の転売による関税や消費税の脱税である。

 たとえ、少額であれ、これを野放しにしておくことは、国が黙っちゃいないだろうし、輸入販売を手掛ける業界からの強い反発があることは必至である。加えて、水際での対策が難しいことも容易に想像できる。税関検査で、煙草や酒類など、免税での持込数量がはっきりとしているものは管理がしやすいだろうが、正規のブランド品や食品などで量の多さを指摘してみたところで、「オ・ト・モ・ダ・チへのお・み・や・げ」などと言い張られたら、埒が明きそうにない。

 ちなみに、財務省が発表している、直近の「関税等脱税事件に係る犯則調査の状況」を見ると※3、犯則による処分件数は2017年の841件をピークに減少しており、2019年は271件と、2018年から半減している。ただし、この数字の大半は、一時しばしば報道された地金であり、メルカリの取組がどのくらい寄与しているのかは定かではない。とはいえ、メルカリが海外からのアクセスを絶つことは、自覚のない不用意な犯罪を未然に防ぐことにつながることは間違いない。まあ、企業の社会的責任というか、新たなサービスを展開する上でつきものの、グレーゾーンを消す作業といえるだろう。

 というわけで、メルカリ体験記を書こうと思う。「売る」ことをはじめてから半年、実は、もう少し早い段階で書けるかと思っていた。ところが、かなり不可解な現象が多々あり、今でも、解釈に苦しむことがままある。これらを一言で片づけようとするならば、価値観の多様化ということにでもなろう。でも、価値観の多様化で片づけてしまうと、目の前で起きている現実から目を反らすことになるような気がしている。加えて、今、書かないと、メルカリというインターネット空間の現場で感じた肌感覚が薄れていくような気もする。なので、価値観の多様化とは何か、を頭の片隅に置きつつ、現段階でのメルカリという社会現象を、思考を整理するつもりで書いてみたい。(つづく

 

『メルカリの世界』(目次)

はじめに:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘

 

『ビジネス法務』2019年4月号(中央経済社、2019.2)を、Amazonで見る↗

 

『ビジネス法務』を、Fujisan.co.jpで購読する↗

 

この記事を共有する?