
メルカリのプライマリーロゴ(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1)
本題に入る前に、メルカリ体験を通じた利用実態の観察から、何が見えてくるのか、に言及しておこう。
真っ先に挙げるべきは、転売ヤーの実態であろう※2。ただし、現時点で言及できるのは、底辺の転売ヤーである。「底辺転売ヤー」、こういう言い方が妥当なのか否か、転売の全体像が非常にとらえにくいので、自信がないのだが、少なくとも、この半年という期間で捕捉できた転売ヤーは、自らが転売ヤーであることをひけらかすような態度をとる、つまりは見つけやすい、下品きわまりない連中である。
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こやつらは、仮に転売が犯罪であるならば、オレオレ詐欺などの特殊詐欺でいうところの「受け子」とか、「出し子」といった※3、組織の末端にいる真っ先に捕まる面々に相当する。ただ、受け子や出し子と決定的に異なるのは、犯罪ではないと認識しているためか、どいつにしても転売をしているという自覚がありそうな上、妙に誇らしげなのだ。その驕りが出品物の写真や説明、コメントに垣間見えるから、いらっとさせられるし、そこには養老孟司の言う「バカの壁」が厳然と立ちはだかっているような気がして※4、たとえ喉から手が出るほど欲しい商品であっても質問することすら憚られる。
特殊詐欺の頂点が捕まらないのと同様、れっきとした転売屋ほど、見つけにくい。真の転売屋の実態を暴くためには、相応の覚悟が必要であろう。メルカリ体験記などという生ぬるい観察では、とてもじゃないけど、手に負えない。フリル、ショッピーズなどのフリー・マーケット・アプリケーションはもちろんのこと、ヤフオクをはじめとしたオークション・サイト、さらには、質屋やリサイクル・ショップといった実店舗などなど、転売の可能性を秘めた商品が出回る、ありとあらゆる舞台を徘徊しているだろうし、それぞれの舞台で複数のアカウントを巧みに使い分け、日々利鞘を貪っているに相違ない。
ここで組織犯罪である特殊詐欺を引き合いに出したが、転売の世界でも、どうも組織的な転売屋集団が台頭しはじめてきていると睨んでいる。そのしっぽが見え隠れしているように映るのだが、今のところ確信までに至っていない。
したがって、今回言及するのは、メルカリの表層で蠢いている、目障りな転売ヤー、すなわち底辺転売ヤーであることを、予めご了承いただきたい。とはいえ、こやつらが失せるだけで、かなり快適なオンライン蚤の市が実現する、と考えている。なぜなら、真の転売屋は、転売屋であることを微塵も感じさせないだろうから。むしろ、真の転売屋との取引は、後述するが、目障りな転売ヤーらが使う常套句「気持ちの良い取引」で終わるはずである。
では、こやつらをどうするか。もちろん、蒐集したアカウント名を公表することは可能である。しかし、そんなことをしても意味がないだろう。そもそも、メルカリはアカウント名からは検索しにくい仕組をつくりあげているし、観察したのは、至って個人的な興味から恣意的に選んだ、ごくわずかな商品である。仮に、そこで暗躍する転売ヤーの吊し上げに成功したところで、二番手、三番手の転売ヤーが喜び勇んで躍り出てくるに違いない。そのぐらい、ほとんどの商品に少なくとも二、三の転売ヤーが張り付いているように感じている。
そんな訳だから、本稿では、木を見て森を想像するよう心がけたい。つまり、採集したのはわずかな事例であるが、それらを通して、メルカリにごまんとある商品に張り付く、底辺転売ヤーに共通する特徴を炙り出したいということである。その正否は、読者諸君が恣意的に選んだメルカリ商品で確認していただきたい。(つづく)
『メルカリの世界』(目次)
はじめに:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち
第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘
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※1―※4―養老孟司『バカの壁』東京:株式会社新潮社2003.4(https://www.shinchosha.co.jp/book/610003/)参照。
閉じる※3―「受け子」「出し子」は、特殊詐欺における隠語であり、受け子は被害者から現金を直接受け取る役、出し子とは被害者の預金口座から現金を引き出す役のことを指す(『デジタル大辞泉』小学館、参照。2021.6.10閲覧)。
閉じる※2―筆者はかつて、「転売規制、その先にあるもの」(『Fieldworker's Eyes:フィールドワーカーのまなざし』合同会社Fieldworker、2020.6.22、https://eyes.fieldworker.co.jp/article/29)という一文を発表した。これは、コロナウィルスの感染拡大によって、市場におけるマスクの品薄が続く中、法律によって、マスクをはじめとした物資の転売規制をかけることにより、高価でも真に必要とする人の最終的な入手経路を経ってしまうことに言及した記事である。その内容は上記リンクから確認してもらうとして、発表した時期が電子媒体に著作を発表しはじめた時期だったことと、電子媒体の長所の一つに複製容易性があると考えているので、試験的に同じ文章を様々な電子媒体に掲載してみた。そのうちの一つにnoteがある(著者のnoteのトップページへのリンクは、https://note.com/s_onda)。noteに掲載する際に、当該文章は、いささか長いと感じたので、章単位で掲載してみた。そのため、もともとの章のタイトルが、記事のタイトルとなった。結果、群を抜いてアクセスされた記事がある。そのタイトルは、「転売規制、その先にあるもの:4 転売ヤーは誰で、購入者は誰なのか」(https://note.com/s_onda/n/nb9b93e872427)。反面、この記事の「スキ」の数は、アクセス数に反比例するかのように、きわめて少なかった。この現象を読み解くと、社会的に限りなく無名に等しい著者が、インターネット空間に文章を発表する場合、タイトルがきわめて重要であることを指摘できる。そして、アクセス数の割に「スキ」が少ないことは、読者にとってみれば、タイトルにつられて開いてみたものの、その内容は期待外れもいいところだったということになろう。つまり、タイトルに騙されたということであり、インターネット空間においても、記事の見出しは、スポーツ紙の一面のタイトル並みの役割を果たしているといえる。そこで、騙されたと思った人たちが、この記事にアクセスする望みは非常に薄いだろうが、本稿こそは、「転売ヤーは誰か」を主題としているので、ぜひとも読んでいただきたい。と書いたところで、どうやって、その人たちにこの情報を伝えるのか、その術を知らないが……。ここまで書いたついでに、蛇足で書いておくと、従来、インターネット上に公開された記事は、検索用にキーワードを設定することができた(ちなみに、今でもできる)。つまり、検索エンジンを提供しているグーグルをはじめとした各社は、そのキーワードによって、利用者が求めている情報を抽出するプログラムをつくっていたのである。しかし、それに気づいた記事元の関係者が、そのプログラムを悪用し、記事が検索に引っかかりやすくするために、記事にキーワードを書き連ねた。記事元の関係者は、非常に賢いわけだが、グーグルをはじめとした各社はそれに対応できず、ついにはキーワードという仕組自体を形骸化させた。その結果、検索においてタイトルがきわめて重要な役割を果たすこととなった。現在、多くの記事に、頭悪そうな、やたらと長い、それでいて即物的なタイトルが付されているのは、そのためである。この仕組が改善されない限り、秀逸な文学的なタイトルをつけたところで、ほとんどの人に見られないという不可解な現象が続く。恐ろしいことに、グーグルらの存在は、言語のあり方にまで、影響を及ぼしているのである。
閉じる※1―「プレスキット・素材ダウンロード」(『mercari』株式会社メルカリ、https://about.mercari.com/press/press-kit/mercari/、2021.9.1閲覧)参照。
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