メルカリの世界:04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

Submitted by 恩田重直 on Mon, 09/06/2021 - 06:00
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メルカリのプライマリーロゴ(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1
 


 さて、ここまでは、転売するという側面ばかりに注目してきた。しかし、「売る」と「買う」は表裏一体なので、たとえ転売ヤーに焦点を合わせていても、転売ヤーに売る人たち、そして転売ヤーから買う人たちも視界に入ってくる。そもそも、一部の例外を除いて、転売ヤーは自明ではないので、最初はひたすら、売買現場を観察することになる。

 改めて考えてみれば、文化人類学ばりの参与観察が、携帯端末を眺めているだけでできることになる。しかも、観察したい商品に「♡ いいね!」をつけておけば、その商品に誰かがコメントした暁には、ご丁寧にすぐさま知らせてくれる。そこには、実店舗で、店員と客の会話を盗み聞きするような感覚がある。売買の現場が実店舗しかなかった時代では想像もできなかったことだ。もし、実店舗でこんな調査をしようものなら、やたらと手間暇がかかることは疑う余地がない。

 

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 容姿がわからないのは残念だが、アカウントにはプロフィールが書かれていることもある※2。そして、注目したい人物が現れれば、そのアカウントを「フォロー」することで、ストーカーばりに行動を観察することも可能だ。これらの一連の観察からは、総じて、現代社会の消費活動の生々しい現場が垣間見られるということになろう。そしてそこには、単に転売ヤーだけの問題ばかりではなく、転売ヤーへ売ったり、あるいは転売ヤーから買ったりする人たちが存在し、転売ヤーを補助している現実が浮かび上がってくるだろう。

 ちなみに、吐露しておくと、見つけ出した転売ヤーのアカウントを「フォロー」し、その一挙手一投足を観察することはなかった。というより、できなかった。なぜなら、説明文やコメントに対する文言を見るだけで、いらっとし、精神的苦痛で、携帯端末を叩きつけたくなる衝動に駆られるからだ。四六時中、そんな情報を通知されると、気が触れるに違いない。そうした意味では、調査者失格かもしれないし、そこまで世の中を達観してみられるほど、成熟の域に達していない。

 

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 ところで、直近の株式会社メルカリの決算説明会の資料を眺めてみると、月間実態利用者数は1,954万人となっている※3。これには、当然、複数台の携帯端末を操りながらメルカリを利用している転売ヤーなども含まれているはずで、そういった人たちは複数の携帯電話番号を取得し、それぞれの携帯端末に入れた「メルカリアプリ」を異なる携帯電話番号で登録していると思われる。なので、実際の利用者は、少なく見積もって日本の全国民の10人に1人ぐらいになるのだろうか。

 この数字から、現代日本の多数派的行動が、どのくらい読み取れるのかはわからないし、そもそも現代に、多数派的行動があるのかもわからない。ただ、メルカリを利用する層、すなわち男女比や年齢、年収などが、偏りをもっているであろうことは容易に想像がつく。そういったメルカリ利用者の特性分析をする必要は欠かせないが、メルカリという現象が、現代日本の消費活動の一断面を示していることは間違いないだろう。そして、メルカリ現象自体が、価値観の多様化の一側面を示していよう。

 それにしても、メルカリ体験は驚きの連続だった。そして、驚きは未だに尽きない。それでは、皆さんをメルカリの世界へご案内しよう。(つづく

 

『メルカリの世界』(目次)

はじめに:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘

 

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ジェイムズ・クリフォードほか編、春日直樹ほか訳『文化を書く』(紀伊国屋書店、1996.12)を、Amazonで見る↗

 

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