メルカリの世界:12 「いいね!」と価格の関係

Submitted by 恩田重直 on Thu, 09/16/2021 - 06:00
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メルカリのスポットイラストレーション(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1
 

 メルカリには、近年のフェイスブックやツイッターなどの普及で、すっかりおなじみとなった、「いいね!」という機能が備わっている。その表示は、ご多分に漏れず、ハートマークである。

 単純に考えれば、出品された商品がよければ、「いいね!」ということになるのだろう。しかし、メルカリが不用品取引の場であることから、フェイスブックやツイッターでの「いいね!」のように、単に書かれた内容に賛意を示す行為とは、いささか異なる使われ方もあるように思われる。

 まずは、至って普通な「いいね!」の使い方から。これは、アマゾンなどをはじめとした、オンライン・ショッピング・サイトでいうところの「カート」のような役割である。「いいね!」をつけておくことで、「いいね!」した複数の商品の一覧が表示されるようになり、気になる商品がすぐに閲覧できるようになる。とりわけメルカリでは、同一商品が数多く流通している場合、見つけた時に「いいね!」をつけておかないと、後々、探し出せなくなることもしばしばある。なので、少しでも気になった商品であるならば、「いいね!」しておくに越したことはない。

 

 

 この「いいね!」、気になる商品が閲覧しやすくなるばかりではない。「いいね!」をつけておくことで、値下されたり、コメントがついたりすると、通知されるようになる※2。予算の都合だったり、商品の説明不足だったりで、購入に二の足を踏んだ際に重宝する。この機能は、裏を返せば、取引を監視できるということでもある。同一商品の出品を考えている場合、他者の出品が最終的にいくらで取引されるのかを見守ることが可能となるのだ。したがって、「いいね!」した人は、必ずしも購入を前提にしているわけではないということにもなろう。

 一方、「いいね!」は、出品者にも通知される。「○○(アカウント名)さんが、『××(商品名)』にいいね!しました」というかたちで。出品者になってみると、これを逆手に取ったと思われる、購入者の行為も見受けられる。「いいね!」をつけたり、消したりするのである。つまり、「いいね!」されるたびに、出品者は通知を受け取るのだ。当初、この行為は、全くもって意味がわからなかった。が、どうやら値下を要求している行為のようである。だからこそ、底辺転売ヤーと思しき輩の中には、「値下待ちの『いいね!』お断り」などの文字が踊る。

 ちなみに、こうした行為には、見て見ぬふりをしてやり過ごすことにしている。その背景には、「いいね!」されても、メルカリのシステム上、「いいね!」してくれたアカウントに直接辿り着けないということもある※3。つまり、「いいね!」されると、アカウント名は通知されるものの、そのアカウントのページに飛ぶことができず、評価をはじめとした素性が調べられないような仕組になっているのである。得体の知れない同一アカウントから、度々通知を受けることは、この上なく気色悪い※4。こうした行為を、突き詰めて考えてみれば、そこには、暗に「値下すれば買ってやるから、空気読めよ」とほのめかしているような気がしてならない。至って日本人的だと思われるやり口に辟易する。

 

 

 さて、前置きが長くなった。それぞれの思惑が込められているであろう「いいね!」ではあるが、「いいね!」の数と価格は、間違いなく関係している。大局的に見れば、「いいね!」の数と価格の関係は、次の3つになろう。

・「いいね!」がほとんどつかずに、売れもしない
・「いいね!」がかなりついているのに、売れていない
・「いいね!」がついてないけど、売れてしまった

 一つ目の「『いいね!』がほとんどつかずに、売れもしない」は、設定した価格が高すぎることを示している。極端な例を挙げれば、定価であれば、れっきとした販売店で新品が購入できる商品なのに、定価よりも高い価格がつけられている場合などである。誰もが、値下待ちしたところで、希望する額にはならないだろうと踏んでいる結果であろう。

 二つ目の「『いいね!』がかなりついているのに、売れていない」は、価格がいい線をいっているが、メルカリ時価よりも若干高い時に起きる。一つ目とは打って変わり、値下待ちがうようよ集っている状態である。そして、値下がメルカリ時価に突入した瞬間に、取引が成立する。ただ、こういう出品の中には、その商品の状態でこの値段……、強気だねって思わせるような代物なども多く、日増しに「いいね!」が増えていくような状況を見ると、物見遊山的な「いいね!」がかなり含まれていると思われる。

 三つ目の「『いいね!』がついてないけど、売れてしまった」は、メルカリ時価よりも大幅に安かった時に生じる。要は、「いいね!」がつかないほど、人目にさらされる前に、取引が終わってしまったことを意味する。こうした出品を見るにつけ、切に購入を希望している人の手に渡ったことを願うばかりである。ところが、出品者の評価などで購入者を確認する限り※5、感覚的には半数以上が、転売ヤーの手に渡っているような気がしてならない。悔しい限りだが、転売ヤーは四六時中、画面を眺め、新規出品を物色しているようで、転売に尋常ならぬ心血を注いでいると思われる。

 このように、「いいね!」と価格には、密接な関係が読み取れる。そう考えると、出品者の「値下待ちの『いいね!』お断り」は、半分合ってはいるが、自らの価格設定にずれがあることに気づいていないことを暴露しているようなものだろう。また、上述した購入者の「いいね!」点滅作戦は、購入の意思表示のように映るが、正面切って交渉しないことは、不可解きわまりない。メルカリには、「コメント」という機能があるにもかかわらず……。(つづく)

 

『メルカリの世界』(目次)

序章:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘

第2章:取引の現場
09 暗黙のルールという幻覚
10 苦手な価格交渉
11 メルカリ時価の炙り出し
12 「いいね!」と価格の関係

 

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