メルカリの世界:14 恋は盲目、衝動買い

Submitted by 恩田重直 on Tue, 09/21/2021 - 06:00
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メルカリのスポットイラストレーション(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1
 

 前節では、あたかも「コメント」するのが当たり前のような書き方をしてしまったような気がする※2。誤解なきよう、付け加えておく。それは、決して「コメント」することは必須ではないということである。中には、購入前の「コメント」を求める出品者がいるが、きちんと商品説明がなされていれば、商品の有無の確認だけに「コメント」するのは面倒きわまりない。そうした理不尽な要求の大半は、二重出品であると見て間違いない※3

 つまるところ、「コメント」は、商売に不慣れな素人が、しかも新古品なり、中古品なりを販売するというメルカリにおいて、購入前の不安を少しでも解消するための手立てとして、使えるということである。安物買いの銭失いにならないためにも。

 ところで、ウィンドウ・ショッピングという外来語がある。この言葉は、日本でも日本語に翻訳されることなく、そのままカタカナで使われている。しかし、欧米諸国で味わえるようなウィンドウ・ショッピングを、残念ながら日本では味わったことがない。なぜなら、日本では、店舗の陳列窓の商品展示が充実していないからだ。もちろん、中には見入ってしまう商品展示をしている店舗もある。しかし、そうした店舗が連なる風景を見たことがない。

 真夜中の商店街を想像してみれば、話は早い。閉ざされた味気ない金属製の巻き上げ扉、見るに値しそうなのは気の利いた落書きぐらいなものか。商店街といえど、そこに商品は見出せない。日本で欧米ばりの見入る陳列窓を四六時中、提供しているのは、不動産屋ぐらいではなかろうか。

 なぜ、ウィンドウ・ショッピングを持ち出したのかというと、窓越しに商品を眺めるだけという経験の有無が、購買行動に影響するのではないか、と思い至ったことによる。つまり、商品を眺める経験の少なさは、衝動買いを高めるのではないか、と。そんなことを考えたのは、「売る」立場になってはじめて、販売の当事者として、他者が買う現場に遭遇したからである。売れた商品は、購入されるまでの時間が、とにかく早い。出品してまもなくということもあるし、「いいね!」がつけられたと思った矢先に購入されることもしばしばある。こうした購買行動は、衝動買いと思わせるのに十分だった。

 

 

 実際、メルカリでは一時期、「売れたものの半数以上が、24時間以内に売れています」という広告を打っていた※4。「売れたものの半数以上」というのが味噌であるが※5、こういったメルカリの戦略については、後述することになると思うので、ここでは、「売る」体験で得られた、購入者の購買行動を考えてみたい。

 まず、商品が購入されてから、購入者と「取引メッセージ」で、面倒なやりとりをした取引がいくつかある。ここでいう「取引メッセージ」とは、上述の「コメント」と異なり、購入者と出品者だけで行うもので、一般には公開されない※6。商品の発送前であれば、購入のあいさつや発送日の確認などの軽いやりとりが交わされるに過ぎない※7。そうした中で、こちらがすでに指定していた発送方法で受取は問題ないかとか、購入した商品が求めていた内容とちょっと違ってたといった指摘を受けたのである。いずれにしても、出品の説明に落度はなく、購入者自らが購入前に確認してもらいたい問題であった。最終的には、きちんと説明して事なきを得た。が、これらの購買行動は、明らかに、他者に買われてしまうという思いに駆られ、慌てて購入した感は、否めない。

 こうした購買行動に走ってしまうのは、メルカリの出品の多くが不用品であり、一点ものであるということに尽きよう。同一商品で、同じ価格、同じ状態のものは、次はいつ出品されるか、わからないという不安である。もちろん、直後に、よりいい条件のものが出ないとも限らない。でも、それは結果論だ。加えて、手の早い転売ヤーの存在が拍車をかける。

 そんなこともあり、自らが出品した商品の中には、実験的に、れっきとした販売店で購入できるにもかかわらず、定価とほぼ同額をつけているものもある。熱狂的な愛好者がいそうな、欧米のブランドでもあるし、価格調査で、限りなく定価に近い価格で取引された事例もあったからだ。しかし、現時点で売れてない。流石に、そこまで盲目の購入者は、少ないようだ。「売る」立場からすれば少し残念ではあるが、ほっと胸をなでおろした側面もある。もし、こうした取引が成立するのであれば、転売ヤーになっていたかも知れない。

 

 

 また、こんな経験もした。「コメント」に気付かず、即座に対応できなかったのである。放置した時間は、6時間から半日であろうか。気付いた時は、後の祭り。一応、「コメント」を返すも、律儀に「他者から、すでに購入した」と返事をくれた方もいたが、大半は音信不通となる。結局、購入者が購入を決断した時に対応できなければ、商機を逃してしまうのである。だからこそ、転売ヤーは四六時中、メルカリを眺めているに相違ない。悔しいかな、鉄は熱いうちに打て、を一途に実践しているのである。

 こうした購買行動をまとめれば、大半の購入者は、思い立ったが吉日、購買意欲が芽生えた瞬間に、購買へ向けた行動を起こしている。そして、取引が成立した暁には、予め発送までの日数の目安を提示しているにもかかわらず、早く発送して欲しい、という要望を受けることもある※8。総じて、購入を決断したならば、脇目も振らず取引を完了させ、少しでも早く商品を受け取りたいということであろう。そこには、商品を手にするまでの心労を、少しでも避けたいという心理が読み取れる※9

 さて、先にウィンドウ・ショッピングを持ち出してはみたものの、その関係を紐解くには、欧米と比較してみなければ何とも言えない。ウィンドウ・ショッピングから導き出した仮説、「窓越しに商品を眺め、購入を熟考する機会が少ない日本では、衝動買いが多い」は、未だに仮説に留まっている。加えて、近年では、オンライン・ショッピング・サイトの普及で、現物を直接見る機会は、ますます少なくなってきており、購買行動そのものが大きく変化してきているようにも感じる。もし、各国の衝動買い比率のようなものを出す方法があるのであれば、教えて欲しい限りである。

 ちなみに、自らを例にとれば、喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではないが、一時的に沸々と湧き出した購買欲さえ抑え込めれば、購入まで至るものは必要最小限になると確信している。この購買行動の世界、興味は尽きない。アマゾンをはじめとしたオンライン・ショッピング・サイト、さらには実店舗での購買行動を、各国で比較してみたいものである。(つづく)

 

『メルカリの世界』(目次)

序章:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘

第2章:取引の現場
09 暗黙のルールという幻覚
10 苦手な価格交渉
11 メルカリ時価の炙り出し
12 「いいね!」と価格の関係
13 購入者と出品者の架け橋
14 恋は盲目、衝動買い

 

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アダム・オルター著、上原裕美子訳『僕らはそれに抵抗できない「依存症ビジネス」のつくられかた』(ダイヤモンド社、2019.7)を、Amazonで見る↗

 

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