メルカリの世界:11 メルカリ時価の炙り出し

Submitted by 恩田重直 on Wed, 09/15/2021 - 06:00
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メルカリのスポットイラストレーション(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1
 

 では、どうすればメルカリ上での時価を知ることができるのか。その答えは、メルカリの中にある。というか、メルカリの中にしかない。つまり、時価を知りたい商品の出品事例を、ひたすら観察するのである。

 メルカリ上では、取引が成立した出品については、取引完了から2週間が経過していれば、出品者が自由に削除できる※2。なので、全ての取引履歴が公開されているわけではない。とはいえ、取引が成立した商品が全くないということは稀で、むしろ、まだ取引が成立していない商品が、取引の機会を今か今かと待ち構えているはずだ。

 時価、と聞くと、取引が成立した商品ばかりに目が行きがちである。が、この取引が成立していない商品にも目配りしておくことが肝となる※3。なぜなら、取引が成立した価格に加え、取引が成立しない価格も炙り出されるからだ。ちなみに、もし取引の成立如何にかかわらず、出品がないのであれば、その商品を見出した第一人者となるわけで、その場合は、ひとまず、自分の思うがままに値踏みすればよい。それが適正価格か否かは、出品してみて、はじめてわかる。

 「売る」にしても、「買う」にしても、商品を見定めたならば、出品事例の価格と販売状況、すなわち販売中なのか、売り切れなのかということを、一つ一つ確認していく。いわば、価格調査である。「売る」場合は買い叩かれないために、「買う」場合は足元を見られないために、時価を知ることは欠かせない。

 時価を見きわめる上で、出品事例は多ければ多いに越したことない。かといって、少なくても慌てることはない。一つでも出品事例があるならば、それを仔細に観察し、手掛かりとすればよい。もちろん、価格は商品の状態や付属品の有無によっても、大きく左右される。とりわけ、新古品と中古品では※4、価格に差が生じやすいので、少なくとも分けて観察するに限る。

 しばらく観察を続けると、取引が成立した上限の価格と、取引が成立しない下限の価格が見えてくる。つまり、最高値をつけた取引成立の事例と、最安値の販売中の事例である。もし、商品の状態や配送の方法、出品者の評価などが、横一線であるならば、取引成立の事例の最高値は、販売中の事例の最安値を超えることはなく、安いものから順次購入されていくであろう。この場合、売れる価格と売れない価格の境界が、きれいな一本の線となって立ち現れてくるはずである。

 しかし、メルカリ上で取引されるものの大半は中古品であり、同一商品であっても、状態が千差万別であることは疑いない。その上、それぞれの出品者で、配送の料金負担や方法、発送にかかる日数などもまちまちであるし、出品時期も異なる。加えて、メルカリがその時々で、ポイント還元などのキャンペーンを実施していることもある※5。だから、売れる価格と売れない価格の境界が、きれいな線を描くはずがない。つまり、この価格だとほとんど売れていないがたまに売れる、逆にほとんど売れているが売れ残りもあるという状況が生じる。結果、メルカリ上での時価は、一定の幅をもった価格帯となって現れる。

 

 

 こうやって弾き出したメルカリ時価を頼りに、取引に臨むことにした。そこではじめて、価格の設定が非常に悩ましいことに気づかされた。それは、「買う」と「売る」とでは、取引で重視する点が異なるからだ。「買う」専門の時も、もちろん価格調査はしていたが、あくまでも相場を押さえる程度に過ぎず、予算の上限さえ決めてしまえば、あとは商品の状態の方が気になった。一方、「売る」にあたっては、価格が最も重要な課題となる。価格交渉を想定した上で、最終的な取引価格がメルカリ時価になるように設定しなければならないし、なによりも少しでも高く売りたいという欲が出る。

 何はともあれ、出品してみなければはじまらない。そこで、確実に売れると思われる価格よりも、1割から2割増し程度の、取引事例があるかないかの価格を設定してみた。こうしておけば、想定外の値引交渉に狼狽えなくて済む、と思っていたのは思い過ごしで、瞬く間に、売れてしまった商品も少なくない。価格交渉を身構えていただけに、肩透かしを喰った感があるのは、すでに「09 暗黙のルールという幻覚」で述べた通りである※6

 想定していたより、高い値段で売れたのだから、望外の喜びであることは間違いない。が、そんな状況に、設定した価格が安すぎたのではないか、という思いもよぎる。隠しきれない財欲に、閉口する。一方、売れないものは、待てど暮らせど売れなかった。その差は歴然としている。商品が異なるので、売れるものと売れないものの差がどこにあるのかは、わかりにくい。とはいえ、自他の売れないものの観察を続けていくと、どうやら、その理由を紐解く鍵は、「いいね!」にありそうだということが見えてきた。(つづく)

 

『メルカリの世界』(目次)

序章:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち

第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘

第2章:取引の現場
09 暗黙のルールという幻覚
10 苦手な価格交渉
11 メルカリ時価の炙り出し

 

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