
メルカリのスポットイラストレーション(株式会社メルカリ「プレスキット」より引用※1)
購入希望者と思しき「いいね!」点滅作戦にうんざりしながら、しばらくほったらかしておくと、つけられていたはずの「いいね!」が跡形もなく消え去っていることが、ままある。おそらく、「空気を読めないやつ」だと判断されたのだろう。ちなみに、メルカリからは「いいね!」がつけられた時の通知はあるが、「いいね!」取消の通知はない。出品者にとって不都合な情報は、提供しないということだろうか。
それはさておき、「いいね!」は購入者が一方的に、気になった商品に付箋をつけるような役割を果たす。それに対して、購入者と出品者が直接会話を交わすことができる機能として、「コメント」がある。商品の購入前に、購入者と出品者がやりとりできる唯一の手段であり、出品している販売中の商品を介さないと、できないようになっている※2。つまり、その商品のことしか、交渉できないように仕向けられているのである。
いささか厳しいように思うが、メルカリが購入者と出品者のやりとりを制限しているのには、それなりの理由があろう。それは、メルカリの収益が、販売手数料にもとづいているということに尽きる。メルカリを通して出会った購入者と出品者が、メルカリを通さずに取引されてしまうことを恐れているからに他ならない。メルカリの利用に際して、アマゾンなどのオンライン・ショッピング・サイトのように、出品料を徴収していないから※3、メルカリが指定する支払方法を通じて、販売手数料を抜けないと死活問題となるはずだ。
さて、この「コメント」機能、やはり価格交渉で使われることが圧倒的に多いように見受けられる。転売ヤーが、率先して値下交渉にこの機能を使っていそうなことは、すでに述べた通りである※4。が、当然、商品の補足説明を求める時などでも活躍する。
メルカリの利用者の多くは個人であり、販売店の売子ではないので、商品の説明が舌足らずな出品も多い。その上、中古品、あるいは新古品なので、入手経路や商品の状態を詳しく知りたいものの、それに予め答えている出品は少ない。加えて、出品者が撮影した写真でもって、商品を確認しなければならないので、色味や大きさなどが判然としないこともある。たとえ、些細な問題であっても、欲しい商品に不明点があるならば、「コメント」で聞いてみるに限る。商品が届いてから、後悔しないためにも。
ところが、「コメント」機能は、あまり積極的に活用されていないように映る。もちろん、はたから見ていて、「コメント」のやりとりの上に成立した、清々しく感じる取引は、なくはない。しかし、それはごく一部の取引に、限られている。多くの人が、冒頭で触れた「いいね!」点滅作戦のごとく、可能な限り、非接触で取引を済まそうとしているように思うのは、気のせいだろうか。管見の限り、出品者のこの説明文や写真で、よく取引できるな、と感心する取引も少なからずある。加えて、「コメント」する人ほど、購入条件が厳しいのか、取引に至らないようにも感じてしまう。
「コメント」があまり活用されていない要因を考えるに、「コメント」が衆目にさらされていることが起因しているのかも知れない※5。これを突き詰めれば、「コメント」をしないのは、シャイ(shy、内気)な日本人気質の表出ということにでもなろうか。母語である日本語でのやりとりが中心の世界で、シャイもへったくれもないと思うが、そうなってくると国民性の問題に波及することになる。実際、メルカリ利用者の割合としては決して多くないはずの、外国人ではないかと思われるアカウントからの「コメント」が多いようにも感じる。これを論ずるには、海外におけるメルカリ同様のフリー・マーケット・アプリケーションとの比較検証を、実施すると面白いのかも知れない※6。
ところで、メルカリでは、購入者の許しがたい行動の一つとして「コメント逃げ」という言葉が確立されているらしい。「コメント逃げ」とは、「コメント」を通じた価格交渉の末に、出品者が価格を変更したにもかかわらず、価格交渉した張本人が購入しない行為を指すようである※7。これに含まれるのか否か、判然としないが、確かに、何を聞きたいのか、わからないような「コメント」をされ、「コメント」を返したところで、その後、音沙汰がなくなることはある。こうした行為に、商売にはつきものであろう、冷やかしだと思っていた。しかし、メルカリでは、新しい言葉が確立するほどの行為らしい。ここに、素人商人ならではの朴訥さを感じてしまう。
改めて、自他の出品に付された「コメント」を見ると、その内容は、価格交渉を除けば、やはり説明の補足を求めるものが断然多い。こうした「コメント」は、足りない説明を補ってくれるので、ありがたみを感じる。ちなみに、「コメント」は出品者が自由に削除できるのだが※8、筆者のアカウントでは、その指摘をしてくれた人との取引の成立如何にかかわらず、後続の閲覧者の参考になると思われるので、理不尽な「コメント」でない限り、価格交渉も含め、そのまま残すようにしている。
しかし、中には、ありがたく思わない出品者もいるようだ。「コメント」が付された数日後には、コメントの一切が消されている出品に出くわすことがある※9。付された「コメント」に応じて、説明文を変えているならともかく、変えていないと思われるものも見かける。感覚的には、こうした行動を取るのもまた、底辺転売ヤーが多いような気がしている。
『メルカリの世界』(目次)
序章:メルカリ現象を読むということ
01 海外からアクセスできない!
02 見えてくる底辺転売ヤーの実態
03 底辺転売ヤーの採集方法
04 転売ヤーに売る人たち、転売ヤーから買う人たち
第1章:変わる価値観
05 ごみが売れる!?
06 メルカリ中毒のはじまり
07 「ごみ」から「在庫」へ
08 後塵の「ごみ」屋の奮闘
第2章:取引の現場
09 暗黙のルールという幻覚
10 苦手な価格交渉
11 メルカリ時価の炙り出し
12 「いいね!」と価格の関係
13 購入者と出品者の架け橋
おちまさと『とっさのひと言で心に刺さるコメント術』(PHP研究所、2012.7)を、Amazonで見る↗
齋藤孝『コメント力』(筑摩書房、2007.6)を、Amazonで見る↗
※9―メルカリにおけるコメントの削除に関しては、「メルカリ コメント 削除」などの語句で検索すれば、数多の記事があるので、興味がある方は参照されたい。多くの記事が「コメント」を削除する理由の一つとして、「コメント」を残しておくと、新しい「コメント」が入った時に、以前に「コメント」した人に通知がいくことにより迷惑をかけることを挙げているようである。ただ、これを「マナー」などと言われても、釈然としない。
閉じる※7―百村モモ「【謎ルールだらけ】フリマアプリ「メルカリ」に存在する「独自ルール」が多すぎてビビリまくってしまった件」『Pouch』SOCIO CORPORATION、2016.10.30(https://youpouch.com/2016/10/30/391517/、2021.7.25閲覧)参照。
閉じる※6―各種学位論文を抱えている学生諸君、研究題目に困っているようであれば、ぜひ。その代わり、論文をまとめた暁には、ご一報のほど、よろしく。
閉じる※5―「メルカリガイド:コメントとは」(『mercari』株式会社メルカリ、https://www.mercari.com/jp/help_center/article/820/、2021.7.25閲覧)に、「コメントは取引メッセージとは異なり、他のお客さまも見ることができます」とあるように、「コメント」は、アカウントのあるなしにかかわらず、全ての人に公開されている。
閉じる※4―拙稿「10 苦手な価格交渉」(『Fieldworker's Eyes』合同会社Fieldworker2021.9.14、http://eyes.fieldworker.co.jp/article/68)参照。
閉じる※3―2021年7月25日現在、アマゾンでは、1か月に49点までの商品を販売できる「小口出品プラン」と1か月に49点以上の商品を販売できる「大口出品プラン」という2つの出品プランがある。その金額は小口出品プランの場合が、100円/1商品+販売手数料で、大口出品プランの場合が、4,900円/1か月+販売手数料ということである。ちなみに、販売手数料は商品カテゴリーによって異なり、一部を除き、多くが商品価格の8~15%に設定されている。
閉じる※2―あくまでも販売中の商品に対してのみ、コメントが可能である。すでに、購入された商品では、「コメントする」をタップして「コメント」欄を表示させても、「売り切れのためコメントできません」と表示される。そのため、コメントの機能を使って、価格交渉をしていたにもかかわらず、最終的に第三者が購入した取引などでは、その出品者の他商品に、価格交渉していた人が、当該第三者との取引をキャンセルしてくれないか、といったコメントがつくことがある。このことは、販売中の商品のコメント欄を通じてしか、会話を交わす手段がないことを物語っている。ちなみに、「メルカリガイド:取引における迷惑行為について(出品)」(『mercari』株式会社メルカリ、https://www.mercari.com/jp/help_center/article/647/、2021.7.25閲覧)によれば、「メルカリでは最初に購入した方と取引をする仕組みです」とされている。
閉じる※1―「プレスキット・素材ダウンロード」(『mercari』株式会社メルカリ、https://about.mercari.com/press/press-kit/mercari/、2021.9.1閲覧)参照。
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