感染拡大防止に向けたデータ活用:2  LINE調査、その後

Submitted by Fieldworker on Mon, 04/27/2020 - 14:00
厚生労働省website

 

厚生労働省によるLINE全国調査の結果に関する報道発表(厚生労働省のウェブサイトより)

 

 厚生労働省のロゴが入った調査票が、突然、LINEに舞い込んできて、戸惑った人も少なくないだろう。前回の記事(「感染拡大防止に向けたデータ活用:1 LINE調査の怪」2010.4.10)では、そのアンケート調査の意味、そして意義がどこにあるのか、関係機関の報道発表を中心に検討した。それからすでに2週間が経過し、結果に関する報道が、ちらほらでてきた。それらを踏まえ、再度、この調査の真意を探ってみたい。

LINE全国調査の実施背景

 実は、前回の記事を発表した同日に、連名で調査を行った厚生労働省から、3月31日から4月1日に実施された第1回「新型コロナ対策のための全国調査」(以下、「第〇回LINE全国調査」とする)の結果が報道発表された※1。その結果については、後で触れるとして、まず厚生労働省から発表されたことに驚いた。なぜなら、前回の記事で、厚生労働省は分析のしようがないのではないか、と高を括っていたからだ。読みが外れたことは、素直に認めたい。

 また、同日、LINE株式会社は、4月5日から6日に実施された第2回LINE全国調査の回答データを厚生労働省に提出し、第3回を4月12日から13日にかけて実施すると発表している※2。あくまでも、データ収集はLINE株式会社が行い、分析は厚生労働省がやるという態度は崩していない。

 この日は、LINE全国調査に関係する記事が揃い踏みで、非常に興味深い記事が、いくつか発表されている。その一つに、「LINEの8300万大規模調査、『準備期間わずか数日』の舞台裏」がある※3。本記事が探っている調査背景が書かれていそうで、読む前から気分が高揚する。

 この記事から、一連の調査で指揮を執っているのが、LINEの江口清貴執行役員であるということがわかる。この名前でピンと来た人、かなり関係記事を読み込んでますね。そう、第1回LINE全国調査の回答データを厚生労働省に提出したとして、LINE株式会社の報道発表で役人にデータを手渡す写真に写っている人である※4。江口氏が、厚生労働省とかかわりをもつようになるのは、日本の医療チームが感染症対策に従事した、ダイヤモンド・プリンセス号がきっかけらしい。

 そういわれてみれば、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客に、iPhoneを配布したというニュース、聞き覚えがある。聞いたときは、なんでって思ったけど、あまり気にも留めなかった。かのiPhone、LINEアプリケーションが予めインストールされていて、健康相談などに活用されていた※5。なるほど、LINE株式会社と厚生労働省の関係は、ここまで遡るわけだ。

 その後、3月25日に厚生労働省の担当者から感染拡大防止の相談を受け、江口氏はこの調査を思いついたという。この「思いつき」調査を実現するために、最も重要だったことは、LINE株式会社として厚生労働省からのお墨付きが欲しかったという点である※6。このお墨付き、いうなれば何かあったときに責任を逃れるのための切り札であり、企業としての危機管理といえる。その結果の表象が、調査票の冒頭に付された厚生労働省のロゴである。

 さて、4月10日には、厚生労働省の発表を受けて、第1回LINE全国調査の結果を大々的に報道した機関もある。日本放送協会、すなわちNHKだ。NHKが食いついたのは、4日以上の発熱が続く人の割合であり、その数、2万人以上という数字を衝撃的に伝えている※7。ウェブサイトには、動画も付されているので、テレビでも報道されたのだろう。

 その報道の元となる、厚生労働省が発表した調査結果には、第1回LINE全国調査の結果速報を発表した時と同様に※8、結果と合わせて注意事項を付し、「回答者の属性や調査自体の偏りを考慮する必要」があるとする※9。わずか25秒のテレビ報道で、この説明を入れるのは難しいかもしれないが、少なくとも文字制限のないウェブサイトでは伝えてしかるべき情報である。それを伝えないのは、報道機関として、いかがなものかと思うし、取材者の資料読み取り能力の明らかなる欠如である。

影の調査分析者

 一方、新たな情報も盛り込まれている。それは、「厚生労働省のクラスター対策班と連携してデータを分析した慶應義塾大学の宮田裕章教授」という報道で、これでようやく分析担当者にたどりついた。厚生労働省の報道発表では一切触れられていないので、貴重な情報である。なお、クラスター対策班とは、厚生労働省の呼びかけで集められた感染症にかかわる研究者集団のことで、総勢約30名からなり、2月25日に設置されている※10。報道からも明らかなように、宮田氏はクラスター対策班のメンバーではない。したがって、厚生労働省が発表しているといえども、分析は外部に投げているといえる。

 その宮田氏を直撃し、記事にしたのは、経済誌『Forbes JAPAN』のウェブサイトである※11。結果の説明については、この記事を読んでもらえばわかるので、ここでは、LINE全国調査の経緯にかかわる点を拾い出したい。

 宮田氏は、LINE全国調査に先駆け、神奈川県でLINEの調査プロジェクトを行っていたという。その結果は、広く公表されていないようであるが、「Forbus」に掲載された図表を見る限り、3月5日から毎日行っているようだ※12。調査にあたって、LINE株式会社が宮田氏を必要としたのか、はたまた宮田氏がLINE株式会社を必要としたのかは定かではないが、LINE全国調査の1か月弱前から似たような調査が行われており、こうした過程を経て、全国調査に結びついていることがわかる。

 ついでに指摘しておくと、宮田氏は発熱状況のデータの説明に、アメリカのグーグル合同会社が、4月に入ってから公開しはじめた位置情報にもとづく移動データから、因果関係を探っている※13。つまり、前回の記事で指摘したように、ビッグデータは単体で使うより、様々なデータと突き合わせて用いることで、データの背景がより鮮明に見えてくるのである。

 その一方で、宮田氏をはじめ、LINE株式会社は、一連の全国調査において、LINEが握っている個人情報と紐づけて分析しないことを、ことさら強調する。この態度には、首を傾げざるを得ない。何度も書くが、プラットフォーマー、つまり個人の情報発信の基盤となるソフトウェアを提供している企業たるLINEが、自社で収集しているビッグデータを掛け合わせない限り、政府が期待するデータは出てこないし、政府が最も期待しているのはビッグデータの有効活用だ。

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アンケートの設計

 こんな陳腐なアンケートだけなら、なにもLINEを使わなくたってできるし、もし使うのであれば、対象者8300万人を喧伝するばかりではなく、調査の精度を上げることに重点を置くべきだ。あくまでもビッグデータを使わないということであれば、アンケート自体の問題点について、いくつか指摘しておこう。

 まず、調査の時期について。一連のLINE全国調査は、第1回が3月31日(火)から4月1日(水)、第2回が4月5日(日)から6日(月)、第3回が4月12日(日)から13日(月)であり、その後は音沙汰なし。曜日もばらばら、間隔もまちまちである。一般的に、複数回行う調査であれば、予め、どのくらいの期間を空けることでどのような結果が得られそうなのかとか、回収率が上がるのはいつなのか、などなどを事前に、十二分に検討し、得られるであろう回答を想定しながら、定期的な期間を設定する。例えば、毎週日曜日とか、毎月1日といったように。ちなみに、政府が行っている家計調査は一か月ごとの収支を毎月とっているし※14、国勢調査は5年に1回という頻度で取られている。つまり、LINE全国調査は、調査を開始する時点で、調査設計が全くできていないのである。「思いつき」ではじめた調査の限界であろう。

 次に、NHKが飛びついた37.5度以上の発熱に関する質問。まずもって、なんで37.5度なのかがわからないし、1~3日と4日以上で分けている意味もわからない。ただ、すぐに思い浮かぶのは、新型コロナウィルスが流行の兆しを見せはじめた当初から、厚生労働省が医療機関への受診の目安にしている数値と重なることである。では、この指針はいつ出てきたのか。今からさかのぼること2か月前の2月17日である※15。この日に発表された文書からは、様々なメディアで報道されていたように、2月という例年インフルエンザが流行する時期と重なったいたこともあり、感染の疑いでパニックになった人たちが病院に殺到し、医療崩壊を起こさないようにするために取られた指針であることがうかがえる※16。これらの数値を利用する時点で、新型コロナウィルスが未知のものであるという視点がすっぽり抜け落ちている。

 今一度、確認おこう、LINE株式会社の江口氏が思いついた調査の目的を。「LINEにしかできないことで力になりたかった」のである※17

 もし、誰もが知らないデータを取りたいというのであれば、調査の手法が何であれ、既存の常識や価値観は疑ってかかり、調査を設計しなければならない。これが非常に難しく、なかなかできないことなのだが……。未知のウィルスの素性がわかっていない段階で、医療崩壊を封じるために掲げられた数値をアンケートに利用することで、何が見えてくるのだろうか。自分だったら、こういう質問にするだろう。

質問1:「発熱はありますか。」
回答1:「はい」「いいえ」

「はい、とお答えの方は次の質問にお答えください。」

質問2:「体温は何度でしたか。」
回答2:「小数点第1位までの数値」

質問3:「発熱してから今日は何日目ですか。」
回答3:「1日目」「2日目」「3日目」「4日目」「5日目」「6日目」「1週間以上」

 これは、一般的な人の行動をもとに、質問を考えた。まず、体温を日常的に測っている人は多くないだろうということで、質問1がある。そして、発熱があると断言するぐらいならば、体温を測っているはずなので、体温を聞く。これは専門家ではないので、よくわかっていないが、平熱との差を出せるような質問だともっといい。そして、その発熱がどのくらい続いているのか、という流れである。質問3は、岡江久美子さんの死から、多くの人に注目されはじめている、病状の急変が予測できる仕組みにつなげることを意図している。いかがだろうか。

LINE全国調査の活用と報道

 ところで、公開されたLINE全国調査の結果を、日本地図上で可視化した企業もある※18。LINE全国調査の原データの信憑性はともかく、往々にして数字の羅列で、一見してもその特徴が見えにくい調査データを、見やすく加工する取り組みは大いに評価すべきだ。調査結果の理解度が深まることにつながるからである。もし、自分がこの分析を担当したのならば、調査票で聞いていた、郵便番号のデータ出してくれよって思うこと間違いない。郵便番号のデータがあれば、もっと細かい地区単位で可視化できるからである。

 さて、LINE株式会社はLINE全国調査が一段落した?、4月15日、次のような報道発表をした。「LINEリサーチ、調査メディア『リサーチノート』をオープン」※19。それによると、「国内最大規模のアクティブな調査パネルを基盤に実施した様々な調査の結果を配信する」メディアであるらしい。まさに、LINE全国調査みたいなことを、いつでもできますよと宣伝しているかのようだ。それにしても、なぜこの時期なのか。一連の流れを踏まえれば、LINE全国調査は、厚生労働省を利用し、知名度を上げるために行った調査であり、全てはこの報道発表を目指して取り組んでいたのではないかと勘繰ってしまう。そして、3回のLINE全国調査を終えた段階での報道発表は、満を持して行われたとみられても仕方ないだろう。

 「リサーチノート」の「調査レポート」やらを垣間見ると、タイトルに「新型コロナウイルス」が付されているものが多数並んでいる。この状況に、ついに厚生労働省と手を組んで行った調査を、LINE株式会社でも分析したのか、と思いきや、全く別の調査である。そんな状況に、LINEが行った調査に関する報道も誤解を招きかねない様相を呈している。

 最もひどいと思うのは、第1回LINE全国調査の結果と、最近、LINE独自でやった調査の結果を比較しているかのような見出しを付している報道である。それは、テレワークの実施率を取り上げた記事で、4月6日に「テレワーク実施率は5%」という見出しで発表したメディアが、4月24日には「『テレワーク』は35%に増加」という見出しで発表しているのである※20。記事を読めば、調査対象が異なる調査結果を比較しているわけではないことがわかるが、タイトルだけ流し読みしていたら、「以前の調査の数値がこれだけ改善したのか」と誤読してもおかしくない。こうした中でも、「新型コロナ下のテレワーク 実態はLINE調査だけでは分からない」といった指摘をする記事も※21、わずかではあるが、あることに安心する。

情報化社会におけるメディアの役割

 あまり書き連ねたところで、この記事が宣伝になってしまう可能性もあるので、この辺でまとめを書いて擱筆することにしよう。情報化社会の今日では、様々な情報を、誰もが発信できるようになった。それは画期的である一方、情報が錯綜することにもなり、読み手は記事の真贋を判断する能力が、今まで以上に求められている。一方、発信する側となるメディアは、その真価が問われていることは間違いない。活字離れが騒がれて久しいが、こと新聞に関しては、その一因に、記者の質の低下があるのではないだろうか。現に、情報の圧倒的多数は、文字でやりとりされているのだから。

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